Scene16 1/3

 実のところ、モップの飼い主を探すことに、乗り気ではなかった。
 その飼い主は確かにモップを捨てたのだ。取り返しようのない事実として。
 私はきっと、モップに自分を重ねていた。
 もちろん私は両親に捨てられたわけではない。
 むしろ両親は、私を大切にしてくれているのだと思う。そういう意味では、私とモップは、まったく違う。
 でも視点を変えると、同じに見えた。
 両親が求めているのは、私ではなく、姉だ。吉川アユミではなく、吉川マユミなのだ。その2人はまったくの別人だ。でも字にしてみれば、とてもよく似ている。そして両親は、その違いを上手く理解できていない。
 うちは3人家族だ。実直な父、優しい母、良い子のマユミ。その幸福な3人家族に、アユミは含まれていない。
 私にはモップと同じように、居場所なんてなかった。もしも姉がひょっこりと帰ってくるようなことがあれば、保健所に連れて行かれてしまうのだろう。
 だから、モップの飼い主を探すことに、乗り気ではなかった。
 居場所もないまま家族の元にいることが、気持ち悪くて仕方がなかった。
 モップはせっかく自由になれたのだ。確かに今、モップには居場所がないのかもしれない。でも、それなら新しい居場所を作ればいいだけだ。今までの家族とは違う、まったく別の場所に、まったく新しい居場所を。
 できればその居場所を、私自身の手で作りたかった。
 そうすることで私は、私の居場所までみつけられるような気がしていた。

 ――黒崎くんは、ちゃんと自分の居場所を持っているから。
 貧乏だとしても、きっと黒崎くん自身の名前を呼んでくれる、お父さんとお母さんがいるから。
 だから、モップの家族を探そうとしているんだ。
 ――どうしようもない家族のことなんて、知らないんだ。
 そう思っていた。


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