Scene10 01:50〜 1/4
目覚めるとなにもない部屋にいた。
家具はない。窓もない。ただ正方形の部屋。壁は何か白い素材で出来ていて、メダルのようなくぼみが無数に並んでいる。
身体を起こす。まだ全身が気だるい。
頭を振って、思い出す。
私は――大久保に、たぶんスタンガンを押しつけられた。それから、車で運ばれたのも、きっと夢ではないだろう。運んだのはトレインマン。意識と一緒に失っていた恐怖が、再びよみがえる。
いつもの癖で、胸に手を伸ばした。だがやはり、そこには何もなかった。せめてペンダントを失くしたことだけは、夢であって欲しかったけれど。今夜の私に、救いなんてない。
右腕の、スタンガンを押しつけられたところに、小さな火傷の後が残っている。触れると痛い。他には――全身の疲労感を除けば――どこにも問題はないようだ。
ほんの短い時間、大久保のことを考える。
きっと私は裏切られたのだろう。そのこと自体はもちろん苛立たしいが、あまり感情的な気分にはならなかった。途方もなく訳がわからないだけだ。
ともかく立ち上がる。
部屋の片隅に、ドアがあることには気づいていた。きっと鍵が掛かっている。そう思いながらドアノブに触れた。それは素直に回転する。このまま押せば開きそうだ。
つい、ドアノブから手を放す。
開くのが怖い。
この先に銃口がある。そのイメージが脳にこびりつく。
――そうだ、警察。
警察に電話しよう。ここまで助けに来てもらおう。私はポケットに手を突っ込む。スマートフォンをひっぱりだす。それを見つめてから、ようやく冷静な意識が違和感に気づいた。
なぜ、トレインマンはこんなものを放置しているのだろう? 携帯電話の類は、まず取り上げられそうなものだけど。
ともかく、ホームボタンを押す。バッテリーの残りが少なくなっていた。
メールのアイコンに、着信を告げるマークがついている。でも、まずは警察だ。110。強くスマートフォンを握りしめる。
なかなか、繋がらない。――どうして?
どれだけ待っても、聞こえてくるのはエラーのような機械音だけだった。
スマートフォンを耳から話して、気づく。「圏外」と無機質な2文字が、右上に表示されている。
いまどき、圏外? よほど特別な場所なのだろうか。壁の素材が特殊なのだろうか。
まったく。何もかも上手くいかない。
ペンダントも失くしてしまったし。
じっとスマートフォンを眺める。新着メールのことを思い出した。圏外なのに、どうしてメールが届いたのだろう? ここに運ばれてくる前のメールだろうか。
アイコンをクリックする。メールを受け取ったのは、普段は使っていないアドレスだった。以前、取得し、なんとなくこのスマートフォンにも登録していた、ヤフーメールのアドレス。受信時間はつい数分前だ。
差出人は「少年ロケット」となっている。聞いたことのない名前だ。ダイレクトメールの類だろうか。
本文は――
2304042119042616040412021714112312021412050503
なに、これ。意味がわからない。ただのランダムな数列に見える。
私は額を押さえる。
こんな状況で。バッテリーの残りも少ないのに、無駄に混乱させるようなメールを送らないでほしい。
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