Scene32 13:00〜 2/2-fullheart 2/2
何もわからなかった。
なぜハートのペンダントが2つ揃ってここにあるのかも。
どうして私が、心の底から安心して、あの銃口に背を向けていられるのかも。
わからないまま、正しい形に繋がった、ペンダントを手に取る。
10年前から首に下げていた、あの黒い欠片だけじゃない、完全なハートはずっしりと重かった。両手で握りしめる。
そして、ふいに理解した。
熱だ。
触れて、伝わる、この世界でもっともリアルなもの。暖かな温度のような何かを、手のひらに感じる。
私はそれを知っている。名前を思い出せないけれど。
愛情に似ている。友情に似ている。祈りに似ている。涙に似ている。モップにも、もちろん黒崎くんにも似ている。
熱のような、名前の思い出せない、でも確かに知っている感情が伝わる。ハートから、手のひらを通り、私を駆け巡る。
だからだ。ふいに理解した。
誰かが。
きっとたくさんの誰かが、奇跡を当然にしてくれた。
思いもよらない幸福が、ただの当たり前になるように、ここまで運んでくれた。
誰かがハートを、届けてくれた。
かたん。と、背後で音がした。
振り返る。
キャップ帽を被った彼が、両手をだらりと下ろしていた。
足元に拳銃が転がって、きっとどこでもない方向に、銃口を向けていた。
彼は、その目深に被ったキャップ帽から、ようやく瞳を覗かせて。
茫然と、私の手の中のハートを眺めていた。
深い黒の、まっすぐな。
それは、大好きな彼の瞳だった。
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Scene32 13:00〜 2/2-fullheart 1/2
ポケットの中で、何かが震えたような気がした。
でもそれは気のせいだ。スマートフォンはもう、バッテリーがないのだから。
きっとただ、恐怖に身震いしただけだ。
ああ、私は。
――助けて。
きっとこの街に戻ってきて、ゆっくりとした長い走馬灯をみていたのだ。
――助けて、黒崎くん。
身体がいうことをきかない。
水中で、もがくみたいに、無理やりに振り返る。
やってきた道を駆け戻る、つもりだった。
でも足がもつれる。倒れた。地面がふいに目の前に迫る。
膝を強く打ったが、痛みは感じなかった。脳が、打撲や裂傷よりも大きな危険を理解しているのだろうか。
手をついて起き上がろうとする。
すぐ真後ろで、足音がした。
それを聞いた時、身体はもう、動かなくなった。
絶望が全身にのしかかる。
その時だった。
なにかが、輝いた。
前方だ。スケートボード禁止と書かれた看板の向こう。
ひょろりとした1本の木がある。その木の、下から2本目の太い枝――幹から15センチほどで切られた、ただ突起のような枝に、輝くものが引っかかっている。
ペンダント。
2つの、ペンダントだ。
白と黒。左と右。2つで1つのそれらは今、正しい形になって。
綺麗なハートになって、そこにある。
圧倒されていた。
私の、ずっと求めていたハートが今、まぎれもない奇跡として。
現実として、確かにそこにある。
立ち上がる。
奇跡に向かって、歩く。
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