Scene32 13:00〜 2/2-fullheart 1/2

 ポケットの中で、何かが震えたような気がした。
 でもそれは気のせいだ。スマートフォンはもう、バッテリーがないのだから。
 きっとただ、恐怖に身震いしただけだ。

 ああ、私は。
 ――助けて。
 きっとこの街に戻ってきて、ゆっくりとした長い走馬灯をみていたのだ。
 ――助けて、黒崎くん。
 身体がいうことをきかない。
 水中で、もがくみたいに、無理やりに振り返る。
 やってきた道を駆け戻る、つもりだった。
 でも足がもつれる。倒れた。地面がふいに目の前に迫る。
 膝を強く打ったが、痛みは感じなかった。脳が、打撲や裂傷よりも大きな危険を理解しているのだろうか。
 手をついて起き上がろうとする。
 すぐ真後ろで、足音がした。
 それを聞いた時、身体はもう、動かなくなった。
 絶望が全身にのしかかる。
 その時だった。

 なにかが、輝いた。

 前方だ。スケートボード禁止と書かれた看板の向こう。
 ひょろりとした1本の木がある。その木の、下から2本目の太い枝――幹から15センチほどで切られた、ただ突起のような枝に、輝くものが引っかかっている。
 ペンダント。
 2つの、ペンダントだ。
 白と黒。左と右。2つで1つのそれらは今、正しい形になって。
 綺麗なハートになって、そこにある。
 圧倒されていた。
 私の、ずっと求めていたハートが今、まぎれもない奇跡として。
 現実として、確かにそこにある。

 立ち上がる。
 奇跡に向かって、歩く。


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