Scene34

「ごめんな」
 滲んだ声で、彼が言う。
「オレ、間違えてばっかでさ」
 忘れていた涙が、ようやく溢れる。
 ――黒崎くん。
 謝って欲しいわけじゃなくて。
 これまでの事情さえ、もうどうでもよくて。
「一緒に、いてよ」
 振り上げていた拳で、彼の胸を叩く。
 彼を見上げたまま、涙が頬を伝う。
 せっかく、ハートが揃ったんだから。
 一緒にいてよ。
 大きな手が、彼の胸にある私の拳をつかんだ。
「やっぱりさ、間違えたままじゃ、だめだから」
 滲んだ視界で、彼の泣き顔がみえた。
 彼は大きな2つの手で、とても優しく私の拳を開いて。
「アユミ」
 私の名前を、呼んだ。
 一番聴きたかった声で、間違えずに。
 私の名前を呼んだのだ。
「次は、自分で約束を守るから。もうちょっとだけ、これ、貸しておいてくれよ」
 白い歪なハートを、抜き取った。
「信じて、くれるか?」
 震えた、彼の声。
 私は硬い胸に顔を押しつける。
 叫んだ。
「当たり前じゃない!」
 ――どこにも、いかないで。
「ずっと、信じてる。疑ったことなんてない!」
 ――お願い。一緒にいて。
 ほんの一瞬だけ、彼は強い力で、私を抱きしめた。


 Happy end


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