Scene23 10:30〜 2/5
彼のことばかり考えていたせいだろうか。
目を覚ましてもしばらく、記憶が繋がらなかった。
ここは? 知らないベッドの上にいる。
――いや、知っている。
ぼやけた記憶が、ゆっくり輪郭を取り戻す。
昨夜、あのマンションの一室で、地味なスーツに着替えた女性警官に出会った。
彼女は言った。
「信じられないかもしれないけれど、私は敵じゃないわ」
もちろん信じられない。でも、じゃあどうしろと言うんだ。
女性警官に連れられて、マンションを出て。大通りでタクシーを拾った。
彼女は大きな駅の名前を告げた。
「終電はもう過ぎてますがね」
ぶっきらぼうな運転手の声。
構わないわと、彼女は答えた。
駅でタクシーを降りて、また新しいタクシーを拾って。それを何度か繰り返して、このマンションに到着したのは午前4時を回った頃だった。
「シャワーを浴びて。とにかく眠りなさい」
と彼女は言った。
言われた通りに、私はシャワーを浴び、ベッドに入った。
もちろん、簡単には眠れなかった。
私は枕元にあったスマートフォンを手に取る。時間を確認したかった。でも、ホームボタンを押しても、画面は暗いままだ。バッテリーがなくなったのだろう。
辺りを見回す。
遮光性の高い、ぶ厚いカーテンの隙間から光が漏れている。
ベッド。枕元に照明。ささやかなデスクとチェア、クローゼット。ビジネスホテルのシングルルームみたいな、シンプルで清潔な部屋だ。本棚もない。ゴミ箱は空だった。
壁には白い四角形の、スタイリッシュな時計が掛かっている。
秒針がない。数字さえない。ただ、90度ごとにポイントがついているだけだ。それで午前10時30分頃だとわかった。
ドアが開く。
「よく眠れた?」
そこには、白いワイシャツを着た、あの女性警官が立っていた。
.