Scene23 10:30〜 1/5
黒崎くん。
彼の名前を呟いて、目を覚ます。
ぼやけた視界で考えた。
今、彼はどこにいるのだろう?
何をしているんだろう?
どうして私は、彼のことを、何も知らないのだろう?
高校の2年生まで、私たちはずっと手紙のやり取りをしていた。
手紙でも彼は、ちょっとぶっきらぼうで。もちろん、優しくて。いつも誠実に、私の相談に乗ってくれた。
なのに、高校2年生のある日、突然、彼からの手紙は途絶えた。
心配で、私は毎日のように手紙を書いて。
でもそれらはすべて、「宛て先に尋ねあたりません」の赤い判が押されて戻ってきた。
手紙は長い間、私たちの、唯一の繋がりだった。
でもその繋がりは、ふいに損なわれた。
彼には私の苗字が変わったことさえ、まだ伝えられていない。
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