Scene27 11:45〜 3/4
濃密な記憶の中に、私はいた。
あの半年間がこれまでの人生の大半だったように思った。
こんな時なのに、ぼんやりとジオラマを眺める。
――どうして。
ふいに、怒りが湧いてきた。
――どうしてこれの写真が、トレインマンに届くの?
嫌だ。あの半年間だけは、あの半年間に関する物だけは、誰にも汚されたくはない。
私はジオラマをじっくりと観察する。
建物の1つ1つを、道路の1本1本を、いちいち疑った。
トレインマン。その名前のせいで、駅と線路は何度も確認した。
でもおかしなところはどこにもない。細部まで丁寧に作り込まれている、とても精巧なジオラマだと、改めて感心しただけだ。
ジオラマが入っているガラスケースにも、埃の溜まった足元のスペースにも、やはり疑問点は見つからない。――いや、1つだけ。見つかったものがあった。
ガラスケースの下、木製の台座に、ささやかに、小さなプレートがついている。
元々は金色のメッキだったのだろう。けれど、それは所々剥げ、傷痕みたいな茶色い錆が目立つ。
そのプレートには、制作者の名前があった。
『黒崎正吾』
そうだ。
どうして、忘れていたんだろう?
このジオラマは彼のお父さんが作った。
あのとき、私がお父さんのことを聞いたから、彼はここに連れてきてくれたのだ。
誇らしげに、
――結構、良くできてるよな。
そう言った彼を、ようやく思い出した。
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