Chips - no.41「ある出会い1」

 4年前のことだ。
 なんとなく絵でも描こうと考えた太田信太郎は、海沿いの公園を通り、公衆トイレ脇の細い道を通り抜けて海岸に出た。
 その時、右側から強い衝撃を受け、画材をばら撒いてしまった。
 どうやらランニングをしていた女性――この辺りで、よく見かける彼女だ――に、ぶつかってしまったようだ。
 彼女は太田に頭を下げ、笑った。
 左目だけが細くなる彼女の笑みは、魅力的だった。

 太田と彼女は一緒に画材を拾い集め、少しだけ話をした。
 ありきたりな世間話だった。

 太田が新聞の一面で、彼女の死亡記事を読んだのは、その数日後のことだ。
 だが太田には、彼女が死んだのだとは信じられなかった。

 以降、太田は毎日、決まった時間に海岸で、絵を描いていた
(Chips - no.44「ある出会い2」に続く)


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