Scene20

 その、翌日のことだ。
 黒崎くんの席を、クラスの男子生徒が3人、取り囲んでいた。
「お前、なんで昨日、こなかったんだよ?」
 どうやら黒崎くんは、彼らとの約束をすっぽかしたらしい。
「ああ、悪い。体調が悪くてさ」
 素直に事情を説明すればいいのに。黒崎くんは、当たり障りのない言い訳をしている。
「嘘つけ。元気じゃねぇか」
「寝たら治ったんだよ」
「信じられねぇよ。お前、ゲーム買ってもらったってのも嘘だろ?」
 クラスの男子生徒たちは騒ぎ立てる。
「そうだそうだ」「お前んち、貧乏だからなー」「嘘つき!」
 私は平気な顔で、次の授業の教科書を用意しながら、内心で腹を立てていた。黒崎くんがそんな嘘、つくはずない。
 なのに彼は、平然と答えた。
「ああ。ごめん。嘘だった」
 どうして?
 現物を見せれば、嘘じゃないって簡単に証明できるのに。
「やっぱりかよ」「お前、最低だな」「もう絶対、遊んでやらねー」
 またクラスの男子生徒たちが騒ぎ始める。
 私はうつむく。ふいに、理解したのだ。
 忘れていた。彼がどうやって、治療費を手に入れたのか。とっても不思議だったのに、意識もしていなかった。
 ――バカだ。私は。
 何も現実的なことを考えていなかった。
 また、視界が滲む。本当は泣き虫なのかもしれない。
 きっと。このクラスで私だけが、彼の恰好よさを知っている。
 生まれて初めて、私は同じ歳の男の子を尊敬した。


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