Scene10 01:50〜 2/4-C-1/3

 しばらくメールをいじっていた。
 でも、どこにも送信できない。圏外だから当然だ。
 さすがにもう諦めよう、そう決意した時だった。
 手の中の、スマートフォンが震えた。
 錯覚だ、と思った。電波も届かないところに、私はいるのだから。でも理性とは反対に、身体は素早く反応していた。モニターを覗き込む。
 そこには、確かに。
 新しいメールが、届いていた。
 知らないアドレス。――「少年ロケット」でもない。
 ともかく、文面を読む。

 机の上の本を読んでみて
 パソコンには触っちゃだめだよ

 本? パソコン?
 そんなものこの部屋にはない。
 ともかく返信してみるが、やっぱりエラー。圏外なのに、一方的にメールが届くことなんてあり得るのだろうか。
  ――こっちから送れなきゃ、どうしようもないじゃない。
 助けも呼べない。警察に連絡してもらうこともできない。
 ため息をついて、私は目の前のドアを見つめる。とにかく進むしかないのだ、どれだけドアの向こうが怖ろしくても。ここに留まっていても、何も変わらない。
 手を伸ばす。胸が大きな音をたてる。怖い。心臓が痛くて、吐き気さえ覚える。息を止めて、ノブを回す。ドアはこんなにも簡単に開く。
 先は暗い部屋だ。

 誰も、いないようだ。
 息を吐き出す。肌が妙に汗ばんでいた。
 ゆっくり、辺りを見回した。広い。リビングだろうか。ソファー、テーブル。テーブルの上には文庫本が1冊。
 ――本?
 これの、ことだろうか?
 どこかの書店のものだろう、濃いブラウンに、ポップな街のイラストが描かれたカバーがかかっている。
 街には、ローマ字で地名が書かれていた。東京の地名のようだ。
 薄い本。ページをめくる。意外に大きな字。どうやら、子供向けの物語みたいだ。
 ――今、こんなものに気を取られてる余裕はないよ。
 本をテーブルの上に戻す。
 とにかく、ここを出たい。 
 窓を探したが、それはなかった。部屋の奥、パソコンラックにデスクトップPCが置かれている。モニターは暗いが、電源のボタンは緑色に光っていた。左手の方に、ドアがある。――また、あれを開けるのか? 嫌だ。心底、怖い。
 ふと気づいた。
 PCなら、インターネットに繋がっているんじゃないか? スマートフォンが圏外でも、有線なら、あるいは。
 でも、先ほどのメールが気にかかった。どこの誰が送ったものだか、知らないけれど。
 ――パソコンには触っちゃだめだよ
 やっぱり、余計なことはしない方がいい。
 いつトレインマンが現れるかわからないのだ。早くここから、出た方が良い。


back← 全編 →next
back← 岡田 →next


















.