Scene25 11:00〜 2/3
アルバイトの帰り道に誘拐された私には、まともな荷物もない。
玄関に向かい、靴を履く。
「あの」
後からついてきた女性警官に声をかける。
「ありがとうございました。それに、ごちそうさまです」
彼女はふっと笑う。
「変な子。私も、トレインマンよ」
もちろん、この人は、善人ではない。
きちんと警察に捕まるべきなのだと思う。庇うつもりもなかった。
「でも、助けてくれたから」
お礼は必要だ。
彼女はほんの僅かに、困ったように眉をひそめた。それは、これまでに見た彼女の表情の中で、もっともチャーミングだった。
「ひとつだけ、貴女にお願いしてもいいかしら?」
「内容によります」
「あの写真のジオラマを、調べて欲しいの」
ジオラマ――
昨日、トレインマンに届いたメールに添付されていた写真。
なぜだかそれは、私が生まれ育った街の、ジオラマだった。
「私が調べてみるつもりだったけれど。これから私は、あいつに会わないといけないから」
何かわかったらここに連絡して、と、彼女はメモ帳に電話番号を走り書きした。
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