Scene32 13:00〜 1/2

 前方に白い高架が見える。
 その上を、音を立てて電車が走った。一つ右隣の広い通りには丹波口駅がある。
 私はもうすぐ電車に乗り込み、ペンダントを捜しに行く。
 でも、その前に、深呼吸をしたかった。
 あの公園で思い切り息を吸い込めば、全身が生き返るような気がしていた。
 身体と、心が求めるままに、まっすぐ歩く。
 高架の下を抜ける。
 子供っぽい看板の、お弁当屋さんの前を通ると、揚げ物の匂いがする。久しぶりなのに、いつもの匂い。ずっと変わらない。
 さらに進む。
 信号の向こうに、公園が見える。
 小学生の頃は6年間、この公園を通り抜けて学校に通った。モップと、そして彼に出会った公園だ。
 疲れていて、苦しくて。
 ここがなんの救いにもならないことだって知っていて。
 なのに、なんだか安心する。
 公園があの頃のままあれば、それだけで少し救われる。そんな気がする。
 ふと、目に入る。
 公園の入り口横には交番が建っている。小さな交番だ。お巡りさんがいるのかも疑わしいような。
 ――助けて。
 と祈る。
 でも、祈るだけだ。今の私に、その扉を開ける勇気はない。
 交番の脇を通り、銀色の車止めを避けて公園に入る。車止めには作り物のスズメが4羽ずつ留まっている。
 公園の歩道を、前へ。
 左手の木陰には鉄棒がある。記憶よりもずいぶん低い。それに、なんだかへんな場所。芝生の片隅に無理やり作ったみたいな。
 でも、あの頃にはそんな違和感もなかった。なぜだかちょっと笑える。
 やがて、広場に到着する。

 ここだ。
 もう水の止まった噴水の、正面にあるベンチ。
 モップと、彼に出会った場所だ。
 何度も私が泣いた場所。
 とても大切な約束をした場所。
 私はそのベンチを眺めていた。
 ここにくれば、元気になれると思ったのに。
 思い出したのは、あの頃の涙だった。

 私は、どうかしていたのだろう。
 こんな非常時なのに、足音に気がついたのは、それが間近に迫ってからだった。
 あの、黒く、まっすぐな瞳を思い出す。
 ――黒崎くん。
 彼の名前と一緒に、顔をそちらに向ける。
 身体が硬直した。
 まず目に入ったのは拳銃だ。
 深くキャップ帽を被った青年が――
 トレインマンが、そこにいた。


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