Scene25 11:00〜 3/3

 さすがに、マンションを出る瞬間は緊張した。
 物音を立てないようにゆっくり歩き、辺りを見回す。あのキャップ帽も、ベレットも目につかない。
 でも不安だ。背の低い建物ばかりの街並みを、足早に進む。
 ここが京都だということは、あの女性警官がタクシードライバーに伝えた住所でわかっていた。私が育った場所に近い。バス1本で、かつて暮らしていた家の辺りまで行ける。
 ――警察。
 警察に行きたかった。
 普段ならすれ違うだけでなんとなく気まずい警官に、これほど会いたいと思ったことはない。
 なのに。
 ――わかりやすく通報すると、貴女が殺される。
 その言葉が耳の奥で反響する。全身が震えた。
 女性警官と別れたことで、恐怖が増したようだ。彼女もトレインマンなのに。独りは、嫌だ。
 ――黒崎くん。
 彼のことを考える。
 ――私は、どうすればいいのかな? 黒崎くん。

 でも彼はこの街にいない。
 10年も前に、遠い所に引っ越してしまった。


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