Scene14 2/4

 母は日常的に、私の名前を間違えた。

 テストで良い点を取ったとき、母は言った。
「すごいわね、マユミ
 落し物を交番に届けたとき、母は言った。
「偉いわね、マユミ」
 合唱会でピアノを弾いたとき、母は言った。
「よく頑張ったわね、マユミ」
 読書感想文がコンクールに入賞したとき。入院した友達にたくさんの鶴を折ったとき。それから例えば、誕生日。私がどれだけ頑張っても、褒められるのも、祝われるのも、すべてマユミだ。
 怒られる時は違った形で姉の名前を聞いた。マユミだったら、絶対にこんなことは――
 その度に、私は不良品なのだと言われている気になった。

 それでも私は、母を恨むわけにはいかなかった。
 彼女は頻繁に私の名前を間違えることを除けば、申し分のない母親だった。優しく、愛情に満ちていて、クラスメイトの両親に比べれば高齢だけど美しかった。
 もちろん母の愛が私に向いていないことは、理解していた。死んだ姉がすべてを奪っていったのだ。
 でもそんなこと、受け入れられるはずもなかった。
 近づけば抱きしめてくれるのだ。
 そのぬくもりを、自分のものだと信じたかった。


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