Scene12 1/3
モップについて語ろう。
彼は白いポメラニアンだ。でもその毛並みは茶色く汚れていた。世の中の汚いところをみんな拭き取っていくように、腹の長い毛を地面にこすりつけて歩く犬だった。
モップに出会ったのは、私が11歳になった日だ。
午後4時。よく覚えている。
近所の公園で泣いていた時のことだ。うつむいた私の視界に、白い毛玉が、とぼとぼと入ってきた。モップはポメラニアンの中でも屈指の毛の長さを誇る犬だった。
彼は何か探し物をしているようにみえた。大切なものがどうしてもみつからず、疲れ果てながらそれでもまだ探し続けているように、うつむいてゆっくり歩いていた。
モップが足元で立ち止まる。それから、私の顔を見上げた。犬の目はいつだって悲しげにみえる。モップの目も悲しげだった。
――僕じゃないですよね?
と、モップが言ったような気がした。
――貴女は誰かを待っているようだけど、それは僕じゃないですよね?
ポメラニアンの心情なんて、私にはわからない。きっとその言葉は私が勝手に作ったものだ。モップの姿と、私の心から、身勝手に生まれたものだ。
でも、
――ううん。私はたぶん、君を待ってたんだよ。
と、内心で応えた。
もちろん私が待っていたのは、モップではない。
でも、あの時の私が誰を待っていたのか、私自身にもわかっていなかった。
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