Scene18 3/3

「今日のぶんの治療費を取ってくるよ」
 そう告げて、黒崎くんはいなくなってしまった。
 私は待合室のソファーに腰を下ろす。
 以前通っていた小児科のような雰囲気だ。ラックに雑誌が並んでいる。子育ての雑誌とペットの雑誌は似ている。
 することもなくて、本に手を伸ばす。ペット用のグッズが紹介されていた。――あ、これ、可愛い。骨型のクッションみたいなおもちゃ。でも意外な高額だ。
 モップが元気になったら、なんとか手に入れたいな。どうして誕生日はもう過ぎてしまったんだろう。ああ、でも、これをお母さんにお願いしたら、一体なんて言われるかな?
 しばらく一人でいると、現実的な不安が押し寄せてきた。
 あの獣医が言っていたことを思い出す。
 モップが元気になって、引き取って、それからどうすればいいんだろう? またあの公園に連れ戻すのか。同じように病気になるかもしれないのに。
 ――やっぱり黒崎くんは、初めから、正しかった。
 飼い主を探すしかないだろう。
 元の、モップの家族ではなかったとしても。新しい居場所をモップに作るのだとしても、それは今の私には無理だ。大人の力がいる。
 鈍い私は、少しずつ後悔した。
 ――私は勝手に、私のことをモップに押しつけた。
 モップは私と同じなのだと思っていた。
 自分の居場所がない、一匹と一人。
 でも、だとしても、私にモップの居場所を作るような力はない。できないのに、できる気でいた。なんの根拠もなく。そのせいでモップをあんなにも苦しめてしまった。
 どうしたら、モップの飼い主をみつけられるのかな?
 黒崎くんに相談したかった。彼ならすぐに、具体的な方法を答えてくれるような気がした。
 ――そういえば。
 彼は、どうやって治療費を用意するつもりなんだろう?


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