Scene18 2/3

 診療室を出た私は、黒崎くんをじっと見つめる。
「嘘だよね?」
 犬を飼えるという話だ。
「もちろん」
 あっさり黒崎くんは答える。
「大丈夫なの? そんな嘘、ついて」
「さあ」
「さあ、って」
「とにかく入院させて貰えなきゃ、どうしようもないだろ。嘘よりも命の方が重いさ」
 そりゃ、そうだけど。
「でも治療費を払えなきゃ、モップ追い出されちゃうかも」
「あの獣医、そんな人には見えなかったけどな」
「そう?」
「どうかな。なんにせよ病気を治すよりは、金を集める方が簡単だ」
 まあ、それはそうかもしれない。
 大抵の大人はお金を持っているけど、犬の病気は治せない。
「前進してるんだから喜ぼうぜ」
 そう言って、彼は笑った。
 それは明らかな作り笑いだった。とても不器用に口元を歪めただけの。
 彼の顔を見て、私は思わず、心から笑った。


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