Scene17 2/2
黒崎くんは、まず犬小屋を破壊した。
「何を――」
しているの?
そう尋ねる前に、意図がわかった。
彼は犬小屋をまた、ただの段ボールに戻して、底にタオルを敷き詰めた。
「ほら、モップを」
「うん」
モップを段ボールの中に横たわらせる。彼はそれを抱きかかえて、走り出した。
慌てて後を追う。
「どこにいくの?」
「病院だよ。もちろん」
そうか。そうだ、もちろん。
「でも、お金、あるの?」
「あるわけねぇよ」
「いいの?」
「行けばわかるだろ。なんとかなるさ」
「なんとかって」
「獣医がいるところに行くんだぞ? 病気の犬がいてさ、なんにもしない獣医なんているか?」
それは――
「お前が獣医なら、助けるだろ。決まってる」
もちろん、助ける。決まっている。
黒崎くんは足が速い。でも、なんとかついていけた。彼はモップが揺れないよう注意して走っているからだと気づく。
助かれ、助かれ。一歩ごとに、そう願いながら走る。
口には出していなかったはずだ。なのに、彼は言った。
「助かるさ。もちろん」
「どうして?」
「ようやくなんだ」
後ろ姿じゃ、黒崎くんの表情は見えない。
「ずっと、腹が減ってたんだ。次の飯は、美味いんだよ」
意味がわからなかった。
「助かるに決まってるんだ」
でも、彼の言葉に、救われた。
動物病院に到着した時、モップは目を閉じて。
ささやかで浅い呼吸を繰り返していた。
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