Scene17 1/2
そのよく晴れた日曜日、私はモップの元に向かっていた。タッパーには残り物のパンと、冷蔵庫から取ってきたハムが入っている。
あんまり空が青くて、なんだかとてつもなく素敵なものが落ちてきそうな予感がして、アマリリスを口ずさみながら公園に入った。
モップは黒崎くんの犬小屋に頭をつっこんで眠っていた。ただ眠っているように見えた。
「モップー」
と私は呼びかける。
「元気にやっているかね? ごはんだよ、モップ」
犬小屋の前にしゃがみ込む。
モップは人懐っこい犬だ。それに、最近は私を「餌をくれる人」と認識しているようだった。声をかけると嬉しげな声を上げながら飛び出してくる。なのに。
今日は様子が、違っていた。
犬小屋に頭を突っ込んだまま、か細い声で一度、鳴いただけだった。
「どうしたの? モップ」
私はその、茶色く汚れた毛に触れる。
熱い。体毛と肌の向こう、モップの血液が、慌ただしく脈打っているのがわかった。全力疾走をした後みたいに。
さすがに、私も理解した。
モップは病気にかかったのだ。
昨日まであんなに元気そうだったのに、どうして?
訳がわからなかった。こんなこと、起こるはずないと思った。目の前で起こっていることなにのに。どこまでもありふれた現実なのに、まったく非現実的なことに思えた。
「モップ、モップ」
私は名前を呼びながら、モップを抱きしめる。タッパーが地面に落ちて、大きくバウンドする。
「モップ」
どうしよう?
私はとにかく、モップを抱きしめる。
どうしよう? どうしよう?
まったく、頭が回らなかった。慰めるようにモップが、小さな声で、また鳴いた。
「モップ、大丈夫? モップ」
大丈夫なわけがない。わかってる。泣きたい。
強く目を閉じた、その時だ。
「よう。どうしたんだ? 泣き虫」
黒崎くんが、すぐ隣に立っていた。
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