Scene16 3/3
やがて私は、黒崎くんが「モップの飼い主を探そう」と言い出したことなんて忘れてしまった。
なんだか幸せで、ずっとこれが続けばいいと思っていた。
いや、できれば、クラスメイトがいない時に、ひょっこり黒崎くんが話しかけてくれないかなと、期待さえしていた。
そのせいだろう。教室でつい彼の姿を追うことが増えた。たまに目が合うととても恥ずかしかった。視線を逸らしてから、今、彼はどんな表情をしているのか、妙に気になった。
決まって思い出すのは、彼の瞳だ。
深い黒の、まっすぐな瞳。
いったい、クラスの何人が、彼の美しい瞳を知っているだろう?
ある日、黒崎くんは珍しく笑顔で、クラスメイトと話をしていた。
「父さんがさ、買ってくれたんだ」
「おー。やっとかよ」
「色々、教えてくれよ。まださ、どうやったら武器が作れるのかもわかんないんだ」
「いいぜ。今度、うちこいよ。オレのすっげーの見せてやる」
どうやら男の子たちの間で流行っているゲームの話題らしい。
黒崎くんも、そういうのやるんだな。
以前よりも、毎日が少しずつ、幸せだった。
なのに。
事件が起こったのは、モップに出会ってから、2週間経った日のことだった。
.