Scene14 4/4
11歳の誕生日を、私は心待ちにしていた。
姉は10歳で死んだ。11歳になれば、彼女の呪縛から逃れられるのではないか、と、期待していた。
「おめでとう」
と母が言った。
「おめでとう」
と父が言った。
名前は呼ばれなかった。でも、「マユミ」と言われなかったことで、期待が高まる。
私は笑って答えた。
「ありがとう」
昼食が並ぶテーブルの真ん中には、赤いリボンのついた、まっ白な箱があった。
中身はバースディケーキだと知っていた。知らないわけがない。
父が、ケーキを箱から取り出した。
たっぷりフルーツを使ったケーキだ。砂糖菓子の小人たちが、ケーキの上で遊んでいる。真ん中にはこげ茶色のチョコのプレート。そこにはホワイトチョコで、こう書かれていた。
『マユミ、11歳のお誕生日、おめでとう!』
母がカーテンを閉めて、部屋の明かりを消した。
父がロウソクに、火をつけてくれた。
私は笑顔でそれを吹き消した。もう一度、2人が「おめでとう」と言って。私は「ありがとう」と答えて。
笑顔で昼食を終えて、マンションを抜け出して。
私は一人、公園のベンチで泣いた。
モップに出会ったのは、その時のことだ。
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