Scene4 23:20〜 3/3

 走れ、と声が聞こえた。
 同時に強く腕を引かれる。わけもわからず駆け出した。
 足に力が入らない。誰かに腕をひっぱられ、倒れないようがむしゃらに足を動かす。
 ――黒崎くん。
 なぜだか、彼の名前と一緒に、顔を上げる。
 だがそこにいたのはもちろん、彼ではなかった。大久保。コンビニの制服を脱いで、今は黒いTシャツになっている。
「どうして?」
 驚いた。とても純粋に。
 走りながら、彼の口元は笑っている。その顔がすぐ近くにあった。
「言っただろ? オレ、勘がいいんだ。放っておいちゃいけない子はわかるんだよ」
「でも――」
 でも、なんだろう。
「アルバイトは?」
 声になったのは、結局、そんなつまらない言葉だった。
 大久保は少しだけ笑みを大きくする。
「臨時休業にしたよ。女の子の命がかかってるんだぜ。当たり前だろ?」
 彼は、私の腕を強く引いて。
 夜道をどこまでも走っていく。


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