Scene2 23:00〜 2/2
カロリーオフを売りにしたレモンスカッシュをぶらさげて、レジに向かう。
レトロな車でやってきた、青年の後ろに並んだ。
青年は目元を隠すように深くキャップ帽を被り、有名な通販の段ボール箱を受け取っている。
「はい。お支払い済みですね。こちらにサインだけお願いいたします」
きっとマニュアル通りに、大久保がレジを打つ。
私はまだレトロな車のことを考えていた。
いつ、どこで。私はあの車を見たのだろう? 思い出せない。もどかしい。もう一度、ちらりと駐車場に視線を向けた。
「袋にお入れしましょうか?」
と大久保が言った。青年は首を振る。
――ああ。
特別な理由もなかったが、ふいに記憶が繋がる。
初めはひとつの場面だ。
幼い頃、よく遊んでいた公園。仲の良かった男の子。そして公園の入り口に停まったレトロな車。
そうだ。あれは彼のお父さんと、同じ車種だ。あの車に乗って、彼は遠いところに行ってしまった。彼が自慢げに言っていたのを思い出す。恰好いい車だろう? こいつの名前は――
「ベレッタ」
確か、そんな車だったはずだ。
レジの大久保と、段ボール箱を受け取った青年の視線が、同時にこちらを向く。
恥ずかしくて視線を下げる。神戸で暮らすようになってから、独り言が多くなった。
ありがとうございました、と大久保が言う。青年が、早い歩調でコンビニを出る。
私はレジにレモンスカッシュを置いた。
バーコードを読み取りながら、大久保が言う。
「ベレットだよ」
「え?」
「あの車。いすゞのベレット」
ああ、そうだ。
ベレッタじゃない。ベレットだ。
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