Scene2 23:00〜 1/2
連載再開したよ、と聞いたからそわそわとバイトを済ませてコンビニに直行したけれど、やっぱり載っていなかった。つい呟く。
「だまされた」
それは独り言だったが、私しか客がいないコンビニでは妙に大きく聞こえた。ちょうどBGMの切れ目だったというのもある。
近くで床にポリッシャーをかけていた大久保が答える。
「だましたわけじゃないよ。オレも勘違いしてたんだ」
大学のゼミで会う大久保はどこか頼りない学生だ。
けれど彼も、コンビニで制服を着ていると、きちんとした店員にみえる。服装というのは偉大なものだ。
私は彼に、ちらりと視線を向ける。
「でも、読んだって言ってなかった?」
マンガのことだ。
「先週号の予告に載ってた気がしただけ。時期的にも、ほら、そろそろだと思ってたしさ」
「別にいいけどね」
バイトの帰り道に、ちょっとコンビニに寄っただけだ。無駄足というほどでもない。マンガがどうので怒る歳でも、さすがにない。
大久保はポリッシャーを杖にして、こちらに身を乗り出す。
「メアド教えてよ。今回もさ、やっぱ載ってなかった、って連絡できたじゃん」
「やだ」
「どうして?」
「彼が怒るかも」
「え、岡田、カレシいるの?」
「いるよー」
たぶん。
「嘘だろ? そんな話、聞いたことないぜ」
「遠距離恋愛だからね」
「マジかよ」
「マジだよ」
大げさにうなだれる大久保の隣で、私は週刊誌を棚に戻す。それから胸の辺りに触れた。
指先、シャツの下に、硬い感触がある。それはペンダントだ。牙のような形の黒いペンダント。
メールくらいで怒る男は云々とぼやく大久保に背を向けて、ペットボトルが並ぶコーナーに向かう。何か飲み物でも買って帰ろうと思った。
炭酸飲料のコーナーでしゃがみ込むと、左から強い光が射した。ガラスの向こう、狭い駐車場に車が停まっている。ずいぶんレトロな車だ。丸みを帯びた、でも流線型ではない、特徴的なボンネット。
妙に懐かしく感じた。
きっと私はその車を知っている。確かに昔、見たことがある。
でも、どこで見たのだろう? 思い出せない。
ライトが消えて、運転席から青年が降りる。背が高く、キャップ帽を目深にかぶった青年だ。
私は目の前のペットボトルに視線を戻した。
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